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 研究援助成果(2005年度研究援助成果報告)
| 研究主題 |
DNA二重鎖切断修復における染色体動態制御機構
Dynamic regulation of SMC-like RecN protein in response to
DNA double-strand breaks in Escherichia coli. |
| 代表研究者 |
大阪大学 菱田 卓 Osaka University Takashi HISHIDA |
| DNA double-strand breaks (DSBs) are major threats to the genomic integrity of cells. These result from exogenous and endogenous agents such as ionizing radiation and chemical mutagen and from endogenously produced radicals. Therefore, the repair of DSBs is important for cell survival and for maintaining the integrity of the genome. Escherichia
coli recN is a member of the structural maintenance of chromosomes (SMC) family and is required for DNA double-strand break repair. This study shows that RecN protein has a short half-life and its degradation is dependent on the cytoplasmic protease ClpXP and a degradation signal at the C-terminus of RecN. In cells with DNA DSBs, GFP-RecN localized in discrete foci on nucleoids and also formed visible aggregates in the cytoplasm, both of which disappeared rapidly in wild-type cells when DSBs were repaired. In contrast, in △clpX cells, RecN aggregates persisted in the cytoplasm after release from DNA damage. Furthermore, analysis of cells experiencing chronic DNA damage revealed that proteolytic removal of RecN aggregates by ClpXP was important for cell viability. These data demonstrate that ClpXP is critical component of the cellular clearance of toxic RecN aggregates from the cell, and therefore plays an important role in DNA damage tolerance. |
| 研究目的 |
| 放射線やDNA複製阻害などの外的、内的要因によって引き起こされるゲノム二重鎖切断は、染色体構造の不安定化を引き起こす要因
となりうるため、その修復機構は染色体動態制御機構と密接に関わっていると考えられる 。しかしながら、染色体DNAの損傷修復と染色体動態制御の関連については未だ未開拓の研究分野である。大腸菌recN遺伝子は、SOS誘導を受ける遺伝子群の一つで、SMC(structural maintenance
of chromosomes)ファミリーに属するタンパク質をコードしている。SMCファミリーに属するタンパク質群は、真性細菌、古細菌、及び真核生物に存在し、染色体動態制御に関わるマシナリーとして重要な役割を果たしていると考えられている。これまでの解析から、recN遺伝子破壊株は、相同組換え頻度の低下やガンマ線高感受性などを引き起こすことからDNA二重鎖切断修復に関与していると考えられていたが、RecNがどのような因子と相互作用し、またその機能がどのように制御されているのかに関しては明らかになっていない。本研究では、大腸菌RecNタンパク質と相互作用する因子の同定し、それらの機能を詳細に解析することで、DNA二重鎖切断修復における染色体動態制御の実態を明らかにすることを目標としている。 |
| 研究経過 |
今回我々は、精製したRecNタンパク質から作成した抗体を用いて、DNAクロスリンク剤であるマイトマイシンC(MMC)存在下におけるRecNの発現制御機構を解析したところ、DNA損傷に依存して発現したRecNは、半減期が非常に早いタンパク質(約8分)であることを見い出した。一般に、大腸菌のタンパク質の半減期は比較的長いことから、この結果は、RecNがプロテアーゼなどによって積極的な分解を受けている可能性を示唆している。そこで、我々は、RecNの分解に基質特異的プロテアーゼが関与している可能性を考え、大腸菌細胞質内で働くエネルギー(ATP)依存性プロテアーゼであるClpAP、ClpXP、HslUV、FtsH、Lonの各遺伝子破壊株を用いてRecNの安定性を解析したところ、clpP及びclpX破壊株でRecNの分解が完全に抑えられることがわかった(Fig1)。この結果は、RecNがClpXPプロテアーゼによって分解されるターゲットタンパク質であり、RecNに何らかの分解シグナル(ClpXP相互作用領域)が存在することを示している。
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| Fig1. RecN is a substrate for ClpXP protease. Cells
were incubated in the presence of MMC (0.5 μg/ml) at
37℃ for 60 min, and then chloramphenicol (100 μg/ml)
was added at time zero. The RecN levels of WCE from lon, hslV, ftsH, clpP, clpX,
and clpA deletion cells were examined by Western
blotting with anti-RecN antibody. |
細胞質中に存在するClpXPプロテアーゼは、シャペロン様AAA+ATPaseのClpXとセリンプロテアーゼClpPからなる複合体として機能しており、真核生物における26Sプロテアゾームと構造的・機能的に類似している。ClpXPプロテアーゼは、基質特異性を持ち、転写因子の分解などによる様々な代謝プロセスの制御の他、ストレス環境下で頻繁に生じるタンパク質のミスフォールディングや、その結果引き起こされるタンパク質凝集体の蓄積を排除する為に重要な役割を果たしており、これらの働きは、温度や化学物質などの環境ストレス因子に対する細胞レベルでの適応応答と密接に関連している。これまでの解析から、ClpXPプロテアーゼは、リボゾームにおける翻訳が途中で停止した際に生じるポリペプチドの分解を行うタンパク質品質管理機構においても重要な働きを行っていることが明らかになっている。この機構では、ssrA遺伝子にコードされている機能性small
RNAが翻訳途中で停止したリボゾームにリクルートされmRNAとリボゾームの解離及び、その結果生じる不完全なポリペプチドのC末にSsrA
RNA内にコードされた11アミノ酸(SsrAタグ)を付加する。ClpXPは、このSsrAタグが付加されたポリペプチドを認識・結合し、特異的に分解することで不完全なタンパク質の蓄積を抑えている。SsrAタグの中でも特にC末端に位置する2つの非極性アミノ酸AAがClpXPとの結合に非常に重要であり、実際、AAからDDへとアミノ酸を変異させた場合、ClpXPによる分解が抑制されることが知られている。興味深いことに、我々はRecNのC末端配列がこのSsrAタグと非常に高い相同性を持つことを発見し、SsrAと同様にRecNのC末端配列(AA)をDDに変異したRecNDDでは、分解が完全に抑えられることがわかった(Fig2)。これらの結果は、RecNのC末端配列がClpXPプロテアーゼによる分解シグナル配列として機能していることを示している。
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| Fig2. The proteolytic stability of RecN and RecNDD. △recN cells
containing an SOS-inducible recN (pRecN) or
recNDD (pRecNDD) plasmids were analyzed as
in Fig 1. |
次に、RecNの生細胞における動態制御を明らかにするため、自身のSOSプロモーターの下流にGFPをN末に融合したGFP-RecNを作成し、生細胞における蛍光観察を行った。このGFP-RecNは野生型RecNと同等のDNA損傷修復機能を有しており、MMC処理やγ線照射後にGFPフォーカスの形成が観察された。さらに、DAPIによる核様体染色と重ね合わせたところ、GFPのフォーカスが、核様体上と細胞質上の2カ所に局在していることがわかった。非DNA損傷下でGFP-RecNを強制的に発現した場合は細胞質中のフォーカスのみ観察されたことから、核様体上のフォーカスはDNA損傷に依存したものであり、一方、細胞質中のフォーカスはRecNの非特異的な凝集体(集合体)であると考えられる(Fig3)。次に、clpX破壊株において、GFP-RecNのフォーカス形成を観察したところ、DNA損傷剤の除去後にも野生型株で起こるフォーカスの消失が起こらず、さらにこれらフォーカスの大部分が細胞質中の凝集体であることがわかった。この結果は、ClpXPプロテアーゼがRecNの細胞質中の凝集体排除に重要な働きをしていることを示している。
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| Fig3. RecN foci in cells with or
without DNA damage. Upper panel; Localization
of the GFP-RecN focus in the absence or presence of
DNA damage. Cells containing an arabinose-inducible
GFP-recN gene were exposed to g-rays (200Gy)
followed by the addition of arabinose (0.04%) to induce
GFP-recN. The panels show GFP, DAPI, and GFP/DAPI-merged
images of cells at 30 min after incubation in the presence
of arabinose. Glucose control is shown at the right. Lower
panel; Quantitative analysis of GFP-RecN foci.
For cells with or without g-rays, approximately 300
cells were examined. |
ClpXPによる細胞質RecN凝集体排除の生理的な意義を明らかにするため、clpX破壊株及びrecNDD変異株のDNA損傷剤に対する感受性テストを行った。これまで、clpX破壊株はDNA損傷剤に対して感受性を示さないことが知られていたが、今回、MMC存在下で、一般に実験レベルで処理される時間より長い時間(2〜10時間)大腸菌を培養したところ、clpX破壊株は、野生型に比べ1%以下の生存率(10時間培養後)となることを見いだした(Fig4)。また、recNDD変異株も短時間(1時間)の培養では、野生型と同程度の修復活性を示す一方、長時間培養した場合は、野生型より明らかな感受性を示した(Fig4)。これらの結果は、ClpXPによるRecNの分解が起こらない場合、長時間の慢性的損傷ストレスによって細胞質中にRecN凝集体が過剰に蓄積し、細胞の生存率低下を引き起こしていることを示している。
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| Fig4. Degradation of cytoplasmic RecN aggregates
by ClpXP is important for cell viability. MMC sensitivity
of clpX and recN cells. The bars
represent the percentage of surviving wild-type (circle),
△clpX (square) and △recN (triangle)
cells after 10h of exposure to MMC. Survival of △recN /
pSCH19 (triangle), △recN / pRecN (circle),
and △recN / pRecNDD (square) cells after 10
h of exposure to MMC. |
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| 考察 |
プロテアーゼは、様々な代謝プロセスの制御や、温度やDNA損傷剤などの環境ストレス因子に対する細胞レベルでの適応応答に重要な役割を果たしている。本研究において、我々はRecNがタンパク質品質管理に関わるClpXPプロテアーゼによって分解され、RecNのC末端配列がClpXPによって認識される分解シグナルとなっていることを明らかにした。また、GFP-RecNを用いた生細胞蛍光観察の結果、RecNはDNA損傷に応答して核様体上にフォーカスを形成すると共に、細胞質中に凝集体を形成することを見いだした。さらに、ClpXPはこの凝集体の排除に必須の役割を果たしており、慢性的損傷ストレス環境下においてclpX変異などによってRecN凝集体が過剰に蓄積した場合、細胞の生存率が大幅に低下することを明らかにした。この凝集体による生存率の低下の一つの可能性としては、慢性的損傷ストレス環境では、DNA損傷の誘発とその修復が繰り返し起こっており、細胞質中のRecNの凝集体が過剰に蓄積すると、新規RecNタンパク質のDNA損傷部位へのリクルートが阻害されることでDNA修復活性が阻害されることが考えられる。したがって、これらの結果は、ClpXPがDNA損傷に依存して発現が誘導されるRecNの積極的な分解を促進することで、DNA損傷修復後のRecNの細胞質中の凝集体の蓄積を抑え、結果として、慢性的DNA損傷環境に対する適応や損傷後の細胞の増殖再開(脱適応)において重要な役割を果たしていることを示している。
今回、我々が新たに見いだしたClpXPプロテアーゼによるRecN凝集体の分解や、clpX欠損株が長時間のDNA損傷ストレスのみに高感受性を示すという知見は、DNA損傷修復におけるタンパク質品質管理の役割を明らかにすると共に、バクテリアにおいて慢性的DNA損傷ストレスに対する適応応答にタンパク質分解による制御が深く関与しているということを示している。DNA損傷ストレスに長時間さらされることで繰り返し損傷を受け続けるという環境は、むしろ自然環境におけるバクテリアにとっては頻繁に起こりうる現象であり、ある種の抗生物質に対する耐性獲得なども含めて、この新たな細胞の恒常性維持機構の解明は、生理的に見てもバクテリアの環境因子に対する適応戦略として重要な機能であると考えられる。 |
| 研究発表 |
口頭発表
| 1) |
永嶋浩二、柴田竜也、久保田佳乃、品川日出夫、菱田卓;「大腸菌SMC様タンパク質RecNの機能解析」、日本分子生物学会(福岡、2005) |
| 2) |
永嶋浩二、久保田佳乃、柴田竜也、品川日出夫、菱田卓;「プロテアーゼによるRecN分解制御機構の解析:DNA損傷ストレスに対するバクテリア適応戦略」、日本遺伝学会 シンポジウム (筑波、2006) |
| 3) |
永嶋浩二、久保田佳乃、柴田竜也、品川日出夫、菱田卓;「プロテアーゼによるDNA損傷ストレス環境に対するバクテリア適応戦略」、組換え・ゲノム再編ワークショップ(兵庫・淡路、2006) |
誌上発表
| Khoji Nagashima, Yoshino Kubota,
Tatsuya Shibata, Chikako Sakaguchi, Hideo Shinagawa,
Takashi Hishida; “Degradation of Escherichia coli RecN
aggregates by ClpXP protease and its implications for
DNA damage tolerance” J. Biol. Chem. 281:30941-30946,
2006. |
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